天職!トイレにかける物語
No.21 愛媛県松山市/キホク(上)

 50万人都市の愛媛県松山市で、レンタルおしぼり事業からトイレの予防型メンテナンスサービス事業「アメニティネットワーク」へ、少しずつシフトしている経営者がいる。
2000年10月にアメニティ(本社・神奈川県横浜市、山戸里志社長)にフランチャイズ(FC)加盟したキホク社長の上田剛士、38歳だ。

「レンタルおしぼり業は、1974年に父・治賓が創業し、愛媛でトップシェアの実績を持つ会社に成長しました。幼少の頃から会社と家が一緒で工場は遊び場という環境で育ったので、父の創業した事業への想いは強い。 ただ、紙おしぼりを使用する飲食店が増え、価格破壊が進み、その飲食店も人口も減っている今、なんとか打開策を模索している……」と、上田は業界の苦しい現状を語る。

 99年に松山大学経営学部を中退してキホクに入社した上田は、一般社員と一緒におしぼりの配達を経験しながら新規事業を父と共に模索し始めた。
 そんな折、父から、京都の同業者仲間がアメニティネットワークにFC加盟していると聞かされる。「父は『息子に創業の苦労を勉強させたい』と思ったのではないか」と話す上田は、2000年10月にアメニティとFC契約を交わし、代表者として新規事業に没頭していく。

 ただ、立ち上げは順風満帆ではなかった。実は松山市内にアメニティネットワークのFC店が既に存在していたのだ。本部としては2社あっても十分にやっていける商圏という判断だったのだろうが、先輩加盟企業にとっては「事後承諾」となり、悪印象を持たれてしまったのだ。上田は「決して先輩加盟企業のお客様を横取りするような気持ちはなく、いろいろ教わり、仲間として協力してやっていきたい」という想いが強く、時間をかけてお互い良好な関係を築いていった。

 パソコンが得意な上田は、先輩加盟企業がPC作業で困っている事を聞き出すとすぐに駆けつけ手助けをした。また自分の結婚式に招待し、今では家族同士で食事に行くほどの信頼関係を築き、仕事を助け合い共に成長していく仲になった。
 こうして上田がアメニティネットワーク事業の立ち上げで、おしぼり事業から完全に離れていた約7年、キホクでは実弟がおしぼりの工場ラインを担当。営業は社歴が20年以上ある営業課長が仕切っていた。
 ところが、事業承継を考えた父が、10年2月に上田を代表取締役に抜擢した頃からキホク内部に軋みが出始める。

(つづく)

『FRANJA』(フランジャ)81号掲載 2014年7月15日発行

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