御手洗銀三のトイレコロジー
No.60 トイレのノーベル賞

 一九八五年に「日本トイレ協会」(任意団体)が設立された。初代会長は、人糞(人
文)地理考古学者で世界のトイレットペーパー収集でも有名な慶應義塾大学名誉教授の西
岡秀雄先生(当時、大田区郷土博物館館長)だ。
 八十九年五月、この西岡先生を団長に二十一名の「ヨーロッパトイレ事情調査団」が結
成され、ミュンヘン、ジュネーブ、パリなど四ヵ国六都市を巡る十一日間の視察旅行に行
った。筆者もその一員としてヨーロッパのトイレ清掃・維持管理について見聞してきた。

「おまるの博物館」から始まり、観光地もユングフラウ・ヨツホの登山高冷地、WHO本
部のジュネーブ、花の都パリ、ノーベル賞受賞の地として知られるストックホルム……。
見るものは、公衆トイレと下水道、汚水処理場等々ばかりだ。
 ヴェルサイユ宮殿では「日仏トイレフォーラム」も開催され、フランス側のパネリスト
にパスツール研究所のコレラ科長のド・ダン教授が登場され、トイレと伝染病の話題も飛
び出して、大いに盛り上がった。

 この視察旅行の帰国後、「フランストイレ協会」が設立されたという報をもらった。勿
論、会長はド・ダン教授だ。
 トイレに一家言を持つ人々が集まった日本トイレ協会の影響力は世界に広がり、今では
アメリカ、台湾、韓国、中国等、各国にトイレ協会が設立されている。
 トイレを暗い隠し場所から、日の当たる場所に引き上げた最大の功労者が、日本トイレ
協会というわけだ。初代会長を務めた西岡氏の功績はトイレのノーベル平和賞″に値す
ると言っていいだろう。
 トイレの未来に一歩踏み出した各国のトイレ協会に、当事、日本のトイレ協会会員の有
志でつくった飾り皿を「西岡秀雄賞」として、世界のトイレ協会に授与したこともある。
現在、九十七歳となられた西岡氏は、今もご健在で、我々を激励してくれている。

 現在の日本トイレ協会は、二代目会長の平田純一氏を中心に活発に活動している。この
十一月十三日には、協会設立以来毎年開催され、今年で第二十六回となる「全国トイレシ
ンポジウム」が神奈川県鎌倉市で行われる。
 筆者も久しぶりに実行委員として参加するが、現代のトイレに熱い想いを寄せる面々の
集いに、古都鎌倉に眠る武士たちも目を見張るに違いない。

『FRANJA』(フランジャ)60号掲載 2010年10月15日発行

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