御手洗銀三のトイレコロジー
No.45 安全盲信の企業姿勢に喝!!

 「中国製冷凍ギョーザに有機リン系農薬成分・メタミドホス混入」という中毒事件が、センセーショナルに各メディアで報じられたのは、正月も明けて間もない一月末のことだった。

 製造していた中国の天洋食品は、日本向けの加工食品だけを扱っていたと聞く。
 事の真相は三月末現在、未だ判明していないが、JTフーズほどの大企業が、中国の工場から出荷する前に、適正な検査をしていなかったことに正直驚いた。中国のインフラは、決して良好とはいえない衛生状態であることを現地と取り引きのある企業が知らないはずはないからだ。

 中国といえば、「フリートイレ」が有名だ。ご存じない方のために説明すると、公共トイレは、日本のような扉つきの「個室トイレ」ではなく、仕切りがなく、溝を跨いでしゃがみ、顔を突き合わせて用を足すのが一般的だ。慣れない日本人にとって、これは一大カルチャーショックだと思う。

 十八世紀末、清朝中国の時代。英国の使節マカートニーが「中国訪問使節日記」に、杭州の事情をこんな風に記している。
「我慢の出来ないほど街路を不快にするのは、その悪臭である。毎日、朝早く、前の晩からのゴミや汚物を十分注意して始末しているにもかかわらず、悪臭はほとんど終日漂い続けている」
 実は、現代の中国でも、都市部郊外においては、今もなおこの現状が続いているようなのである。個々の家庭にトイレはなく、狭い通りに面する共同トイレ(厠所)を使用するというのだ。
 そして、夜間は馬桶と呼ばれるおまるを利用し、朝ともなると前夜に排泄した汚物が狭い通りの側溝に捨てられている。

 日本企業は、中国に食を求めるのであれば、そのインフラを常識として自らの検査体制を徹底すべきだ。
「安い」という理由から中国で加工させ、自らは日本国内で大量販売による益を得るのであれば、そのリスクも十分に負うことだ。
 大企業の理念を忘れた#フ売方針の方が、どっちの責任だ、どこの国が悪いと追求するより問題である。

『FRANJA』(フランジャ)45号掲載 2008年5月15日発行

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