御手洗銀三のトイレコロジー
No.36 トイレから反戦運動

 地球のいたる所から、毎日のように戦争、内紛、テロといった悲惨なニュースが流れてくる。それは、何十、何百、何千という人達が尊い命を断たれているということ。これは、武器爆弾による「無差別殺人」としかいいようがない。現実として、そんな無差別殺人がまかり通っている今の世の中は狂っていると思う。

 死に直面した時の悲しみは、言葉にならない。以前、わが社の30代の社員が事故で亡くなった時、私は涙を止めようもなかったし、今もその喪失感は埋めようもない。
 福岡の飲酒運転による追突事故の痛ましさは、世論を動かした。追突された自動車は橋から海に転落し、三人の幼い命を救うために両親が命がけで何度も海へ潜った執念。その思いも虚しく、一度に三人の幼い愛児を亡くした夫婦の悲しみ・・・・・・。誰もが、人の子の親として、この夫婦のやり場のない悲しみを想い、飲酒運転という無自覚な行動への憤りを覚えたからだ。

 一方で、世界の指導者はテロや戦争による殺人に対して、罪の意識さえも感じていない。
 そして、我々も傍観者でいては同罪だと思う。人としてできる反戦の一歩を考えたい。
 かつて、フランスで買ってきた土産にトイレットペーパーがある。そのペーパーにはフセインの顔が印刷されていた。湾岸戦争の頃である。
 当時、勢いのあったイラクが仕掛けた侵略戦争に、フランス人の智恵が作らせたトイレットペーパーだ。悪党と思う指導者に庶民の尻を拭かせようじゃないかというウィットに富んだ反戦運動だ。誰も傷つけず、それでいて効果的な反戦運動だと感服した。

 さしずめ、今なら戦争を遂行する全ての指導者達を、トイレットペーパーに描いてみてはどうだろうか。庶民は一番悪いと思う顔が描かれているトイレットペーパーを買い、自分の尻を拭くのだ。

 私は甲子園球場を沸かせた「ハンカチ王子」の青いハンカチよりも売れるに違いないと思うがどうだろう。
 そして、毎月、どの指導者の顔が一番売れているかを新聞で発表するのである。くれぐれも日本の総理がベストセラーに入らぬように願う。

『FRANJA』(フランジャ)36号掲載 2006年11月15日発行

御手洗銀三のトイレ談論へ