御手洗銀三のトイレコロジー
No.33 トイレ診断士のもう一つの仕事

 全国で活躍中の「トイレ診断士」の仕事に同行して回っている。トイレ診断士は厚生労働省が認定した社内検定でもあるため、この資格がどのように活用されているかを知る必要がある。常日頃、彼らから入ってくる報告は結果が中心だから、普段の仕事に対する取り組み姿勢をこの眼で確認したいと思ったからだ。

 つい先日は、私と二人の社員が手分けして京都・奈良に足を運んだ。

 トイレ診断の仕事にはマニュアルがある。私が危惧していたのは、このマニュアル通りの仕事ができているかどうかだ。認定資格である以上、どこの地域でも、同じ品質の仕事ができていなければならない。しかし、そんな心配は杞憂に終わった。彼らの仕事は丁寧で、レベルが高いことには驚きさえ感じたほどだった。


 今回、私たちが訪れた先は、図らずも全てレストラン。トイレ診断士のS氏と兵庫県・明石の国道沿いのトマト料理の店に開店前に到着すると、そこのスタッフは笑顔で迎えてくれた。
 S氏の作業は、狭いトイレの中をくまなく検査し、汚れや臭気の元になりそうな部分を丁寧に処置。心ない客が便器に放り込んだとおぼしきゲーム場で使われるコインを、吸盤付の押し棒で難なく取り出す姿は見事だった。

 診断作業を終えて、店舗責任者に報告すると、「ありがとうございました」と頭を下げてくれたのが印象的だった。

 二人目のA氏とはK市の和食レストランに同行した。S氏同様に診断作業が終わると、店の副店長に声をかけ、店に常置してある「トイレの日常清掃」というファイルを持ってトイレまで呼んできた。そして、うっかり忘れがちな部分の手入れ法を、自ら実演しながら教えていた。

 副店長は「分かったわ!皆に徹底しておきます」と、トイレ診断士のA氏を感謝の言葉で見送っていた。

 移動の車中で、A氏は「お客様から頂いているお金は、私がトイレを磨くためじゃなく、そこの会社の従業員教育の一翼を担わせてもらっていると思っている。定期的に訪問・チェックし、日常清掃にも問題があればしっかり指摘。この店のトイレを従業員と一緒に綺麗にしていくことがトイレ診断士のもう一つの仕事」と語っていた。

『FRANJA』(フランジャ)33号掲載 2006年5月15日発行

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