御手洗銀三のトイレコロジー
No.16 日本が衛生管理後進国にならないために……

 アジアで猛威を振るう「SARS」。ニュースでは中国・香港・台湾などの様子が毎日流されている。

 WHO(世界保健機関)の調査が進んでいるとはいえ、感染源の特定が難しいSARSの対策は容易ではないようだ。

 香港にトイレサービスの専門店をネットワーク化している我が社では、毎日のようにメールや電話で情報交換している。今では、厨房やトイレの衛生管理は喫緊の課題で、特に手指消毒やうがいの励行が徹底されているそうだ。手洗用自動洗浄器や手洗石鹸自動機、そして便座の消毒クリーナー機の設置なども進み始めているという。

 日本でも「O―157」が流行した時には学校や病院、飲食店などは厨房・トイレの衛生管理に競って神経を使った。しかし、今では、喉もと過ぎれば熱さ忘れるかのような現場も多い。こんなことではSARS騒動が収まった頃には、中国や香港が衛生管理先進国となり、日本が後進国に取り残されるとも限らない。目先の収益にとらわれて、衛生管理のリストラ≠実行している企業が多く見受けられるが、一旦いわく付きの施設だと刻印を押されれば、お客様に工業水を飲ませていた某興行施設ではないが、看板に傷を付けるのは自明の理である。

 幸いにして、日本では衛生機器の設備も良いし、予防メンテナンスの手法も整っている。その気になれば、人の集まるところの衛生を管理することはさほど難しいことではない。バブル経済時期に「トイレを豪華にして集客しよう」という販売戦略がまかり通った時代があった。しかし、トイレはシンプルでも衛生的で安心して使えるトイレが一番だ。

  嫌なトイレの代表例を示すトイレの五K「臭い・汚い・怖い・暗い・壊れている」の「怖い」は、トイレの薄暗さや不気味さに対する怖い≠意味していたが、今や感染危機に対する恐怖と変化している。トイレの用途は排泄だけでなく、手指の消毒を行う場所としても活用されていることを忘れてはならない。誰しもが気持ちよく、安心して、安全に使えるトイレのあり方を、SARSで改めて実感させられるのである。

『FRANJA』(フランジャ)16号掲載 2003年6月15日発売

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