御手洗銀三のトイレコロジー
No.15 日陰の存在だったトイレが陽の目を見る

 今年の年頭にトイレ診断士が、厚生労働省の社内検定制度で認定を受けた。

 トイレ診断士はトイレサービスの専門店『アメニティネットワーク』が、トイレ診断のプロフェッショナルを育成するために、独自に制度を構築し、一九九七年から主催してきた技能検定事業である。
 当然、国が認定するに当たっては、その社会的な影響力を配慮して、内容も相当吟味された。そのことが、かえって、この技能のレベルの高さを証明したともいえる。
 社内資格として、独自に運用している企業はいくつもあると思うが、その技能が公的に認められたことの成果は大きい。
 技能に求められる内容は、トイレに潜在、顕在するあらゆる問題に対して、一貫して科学性・合理性を重視した手法によるものである。

 このトイレ診断≠ヘ、この認定を受けることを目的に構築したものではない。アメニティネットワークがトイレサービスを実践する中で、単なる利益目的ではなく、必要不可欠な機能として、構築してきた技能である。ここに至るまでには、いくつもの難題課題が横たわったが、それらを解決し、明確な基準作りを行った。
 何しろ、今までトイレの専門店というものは存在しなかったし、トイレ学やトイレ研究所もない中で、企業努力として、研究、構築してきたもの。それこそ、智恵と経験を総動員して、創り上げたトイレ管理の実践学!ともいえる中身だ。

 この事業が、官報によって公開されたのは、トイレ診断士にとっても大きな喜びとなり、同時にその役割と責任を改めて感じている。

 今まで、公的な機関には、パブリックトイレを市民サービスの一環として設置・管理してきた。が、トイレをビジネス的なカテゴリーで見ようとはしなかった。関係法律にしても、数十年前に制定されたまま、改正されておらず、トイレの問題は放置されている状態に等しかった。
厚生労働省が公衆衛生の面で汚物処理に伝染病・感染などの規制をしたり、環境庁が水質基準に化学物質の項目を追加したり、高齢者・身障者のためにバリアフリーを条例化するなど様々だが、各々の関連性についてはあまり重視されていない。公的機関のトイレに対する取り組みは、総合的・専門的な視点からは、遅れていたといえるだろう。

 トイレの総合的観点から、まずはトイレ診断士の技能の認定が始まったが、今後、トイレに要求される多様な技能資格制度が控えている。トイレの専門家を育成するこの試みに、国が認定するというお墨付きを与えてくれたことに、正直、喜びは大きい。中でも「どちらかと言えば日陰の存在であったトイレ」にやっと陽が射したという思いは最大の喜びだ。

これを機に、「トイレを考えることは、新たな経済発展の基盤整備だ」と、各企業の経営層に訴え続けていきたい。

『FRANJA』(フランジャ)15号掲載 2003年4月15日発売

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