御手洗銀三のトイレコロジー
No.13 海外で見直される日本の技術力

 秋も深まった十月末、ソウルで開催された「世界トイレ代表者会議」に出席してきた。

 会議には、アジアを中心とした各国からの代表者が集まり、公衆トイレの課題について熱い議論を交わした。
 そこでは、国は違ってもトイレにおける課題は万国共通であることを改めて認識させられ、非常に盛況な会議であった。

 会議場から程近い場所に、韓国企業の衛生陶器から移動式トイレまでが見られる展示会場が併設されていた。イベント上手な韓国らしく、展示ブースはどれも見ごたえのあるものばかり。
 しかし、その展示品は、韓国独自の開発品よりも海外から出展されたものが多く、日本企業の技術力の高さが改めて評価されていた製品もかなり目立っていた。

 しかし、私がとても残念に感じたのは、日本が開発したと見られる展示品は、いずれもすばらしい技術を駆使したものばかりであったのに、元気の良い日本企業が韓国へ進出した成果というよりも、日本国内の激しい競争の中で思うように売れず、コスト競争に疲れ果てた末に、海外にそのノウハウが流出されてしまったと思える商品が多かったことだ。

 バブル時代の反省と称して、国を挙げて、猫も杓子も"安売り合戦"に走る今の日本経済が、優秀な中小企業の開発力や技術を海外に追い出してしまっている事例と考えていいだろう。

 わが社のホームページでも紹介しているが、韓国の慶州で千三百年前の石の便器を見た。この便器は、我々にとってトイレの歴史文化を探る意味でも貴重な史跡である。
 当時としては相当に高価な便器であったに違いなく、廃棄されずに今に残っている。

 日本人が知恵と技術を駆使して開発したトイレも、経済不況に押し流されることなく、日本の遺産として後世に残っていてほしいものである。

『FRANJA』(フランジャ)13号掲載 2002年12月15日発売

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