御手洗銀三のトイレコロジー
No.8 男子よ!獅子は伴侶を求めず!

 街の灯りが、クリスマス一色となった昨年十二月の二十三〜二十四日、全社員が休日返上で、新社屋へ引越しの強攻策をとった。
 創業してから二十六年目の自社ビルである。自宅の応接間を事務所に独立して、人が増えるたびに引越しを重ねてきた。ヤドカリのように賃貸物件を求め歩いたのである。
 予定では、創業二十年の自社ビル計画だったが、六年遅れの目標達成である。
「苦節二十六年」と言うほどではないが、悲喜こもごもの歴史を刻んできた。不思議なことに、幾度と無く「万事休す」と言うような時があったが、必ず、それが転機となって状況はより好転した。吾が人生の福運を感じる。

 しかし、今回の引越しで、かわいい社員が犠牲者となった。
 時刻は夜の七時ころ。引越し荷物の搬入作業を社員が手分けしてやっていた。
 ふと外を見ると、ある社員が、空になった段ボール箱を積み上げるのに、大声で叫びながら叩きつけている姿が、社外の街灯に浮かんでいた。
 何事かと後で理由を聞いてみると、彼女からの「絶交宣言」のメールが彼の携帯に入ったというのである。理由は、仕事、仕事でデートがままならなかったことにあったらしい。

「そんなことで、浮き足立つな!獅子は伴侶を求めずと言うぞ」と、男児たるものの心構えを言い聞かせはしたが、焦りの色濃い社員の顔を見て、女性の力の侮れないことをつくづく感じさせられた出来事だった。
 タリバン政権は女性の権利を抑圧し、アフガンの復興は女性解放が急務となったが、日本では女性に抑圧された男子の復権が急務のようである。
 今、男が家庭に帰ると「あなた、オシッコするときはしゃがんでしてね!」と奥さんからたしなめられ、立ちションを忘れてしまった男が出てきたと言う。人類史上、営々として受け継がれてきた男の「立ちション文化」が二十一世紀中に消えてしまうのでは、と心配だ。

 二〇〇二年はそんな社員の犠牲の上に(!?)、新社屋で正月が迎えられたことを感謝せずにいられないスタートとなった。

『FRANJA』(フランジャ)8号掲載 2002年2月15日発売

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