御手洗銀三のトイレコロジー
No.2

戦う「トイレ診断士」


今日本には、全国に100人を超えるトイレ診断士がいる。
彼らは、トイレの汚れや臭いの原因を探り、その対策に予防管理の手法を用い、汚れや悪臭からトイレルームを開放する。汚れや臭いが発生した時の処理も鮮やかなものだが、むしろ、そのあとに「汚れず・臭わず」の空間を作ってしまうことに目を見張る。

地味な作業なので目立たないが、その働きは衛生陶器メーカーさえも動かした。

今、盛んにテレビコマーシャルから流れてくるのは「汚れない便器?」の宣伝である。
「奥様のお掃除が楽々!」これが謳い文句でもある。
お尻洗浄機器の開発をし、お尻を洗うという文化を日本に定着させた点では、確かに各メーカーの創造性に脱帽したい。しかし、「汚れない便器」は、その先進性とはまったく逆の方向を向きはじめている。開発のコンセプトは知る由も無いが、要はメンテナンスフリーを強調したいのだろう。
それでなくても、掃除をしない家庭が増えていると聞く。そんな家庭に掃除なんかお止めなさいと言っているようにも聞こえるから不思議だ。

今までメーカーが供給してきた衛生陶器は、汚れる便器なので「汚れない便器」に変えなさいとも聞こえる。
掃除の真髄は「汚れとの共存」である。生活をすれば必ず発生する汚れ、それは人間が生きている証明でもある。朝起きて顔を洗わない人はいないだろう。目ヤニをそのままに、新鮮な朝を体感することはできない。それと同じように、トイレも手入れをすることによって新しい空間に蘇るのだ。

トイレ診断士が実行している予防管理は、人間が介在しているからできる心のケア≠ネのである。

トイレ診断士の資格は、筆記と実技の両方の試験に合格したものだけに与えられる。その履修科目は、トイレ文化からはじまり法律、災害、防犯、いたずらなどの社会学、設備機器やメンテナンス技術の習得、さらには、コミュニケーション技術まで多岐にわたっている。まさにトイレを熟知するプロフェッショナルといっていいだろう。
このようなトイレ診断士が200人、300人と増えていくことによって、日本の21世紀の文化が花開くことを確信する。

『FRANJA』(フランジャ)2号掲載 2001年2月15日発売

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